「最近、中高年の女性からのご相談が増えています」
「結核菌と非結核性抗酸菌の違い」
結核菌は人間や家畜などの動物の体内でしか生息できませんが、非結核性抗酸菌は土壌や水中などの環境でも繁殖が可能で、貯水槽や風呂などの給水設備、噴水などの人工的な環境を好みます。また、繁殖速度は遅いが消毒薬への抵抗力はやや強い傾向があります。
「抗酸菌とは」
抗酸菌とは、酸に強い細菌ということではなく、色素で染めても酸で脱色できない性質の細菌という意味です。抗酸菌の種類は非常に多いため、結核菌・らい菌(ハンセン病の原因菌)以外の菌をまとめて“非結核性抗酸菌”と区別して呼んでいます。
「肺MAC症とは?」
現在、非結核性抗酸菌は190種類以上が報告されていますが、人間に感染する菌はごく一部です。日本では、アビウム菌とイントラセルラーレ菌 (英語表記:Mycobacterium avium & Mycobacterium intracellulare) がその多くを占め、病像も似ているために MAC(M.avium complex)と総称されます。
つまり「肺MAC症」を要約すれば、非結核性抗酸菌が人に感染して起きる病気が“非結核性抗酸菌症”で、肺に感染していれば“肺非結核性抗酸菌症”となり、原因がアビウム菌・イントラセルラーレ菌(MAC)であれば【肺MAC症】という病名になるというわけです。
「肺MAC症の症状&養生法&予防法・・・」
初期では、咳や痰が続いたり痰に血が混じるといった症状ですが、進行すると肺に酸素が十分に取り入れられなくなって呼吸不全や肺の空気が漏れてしぼむ“気胸″を起こすこともあります。また、微熱や高熱、倦怠感や体重減少も病気が進行すると出やすくなる症状です。最近では症状が見られないうちに、健康診断の胸部レントゲン検査やCT検査で発見される場合も増えてきているようです。
肺MAC症は、普通の肺炎や風邪のような“治してしまう病気”ではなく、高血圧症や糖尿病のように“上手につきあっていく病気”として捉えられるケースがあります。
高齢で多数の薬の服用が難しい・副作用で食欲が落ちてしまう場合など、健康状態や栄養状態の悪化を招くより現状維持を優先させることが多いからです。
養生の方法はいろいろと思い浮かびますが、まずは禁煙・禁酒。肺MAC症は、喉から肺に原因菌が侵入して始まる病気だからです。
また、MAC菌は主に土や水の中で生息していますから、園芸などで土いじりをするときはマスクを着けて作業されることがお勧めです。
お風呂の湯の噴き出し口やシャワーヘッドからMAC菌が検出されたという報告がありますが、肺MAC症が“年配の女性”に特に多い傾向を考えればそれらの定期的な清掃や乾燥、換気は必要となるのでしょう。
「診断に時間を要する理由」
結核菌は、人間周囲の環境に生息することがほとんどないため、痰や膿などから一度でも結核菌が検出されれば診断がつきます。
しかし、非結核性抗酸菌は土や水の中に生息していたり、病気を起こしていないのに肺や気管支に住みついたりすることもあるため、菌が痰などから2回以上見つかることや病理検査で特徴的な結果が出るなどの複数条件が診断基準として求められ、予想外に時間が掛かってしまうのです。
【補足】
※1 診断基準が結核に比べ複雑で手間が掛かるだけで、病気が重いとか予後が悪いというわけではありません。
※2 胸部レントゲンや胸部CTなどの画像検査で、非結核性抗酸菌症でよく見られるタイプの陰影が認められれば、それも診断の重要な条件の1つになります。
※3 MAC菌については、血液検査(抗体検査)も利用できます。感度が100%ではなく、補助的な診断方法ではありますが、陽性となるとMAC症である可能性が高いと考えられています。