第58回 「負けるが勝ち」

中世のヨーロッパを襲い全人口の3分の1を死亡させたといわれるペストも、もともとはリスや野ウサギ・野ネズミなど小動物の比較的弱い伝染病の一つでした。それが、人間が森林などを伐採して自然の奥深くへ侵入していったため、ペスト菌を持っていた野ウサギや野ネズミなどから人間に感染して大流行を起こしたのです。そして、その毒性は野ウサギや野ネズミなどには弱くても、人間に対しては非常に猛烈であったため多くの人々の命が奪われてしまったのです。

そのペストは18世紀末を最後にほとんど姿を消したのですが、その理由としてペストに感染すると患者がみんなすぐに死んでしまうため毒性の強いペスト菌は逆に生き残ることができず、感染しても人間が死なないような毒性の弱い菌しか生き残ることができなかったということもいわれています。人間の世界でも「負けるが勝ち」とか「過ぎたるは、及ばざるが如し」とかよくいいますが、伝染病の世界でも同じことが起こることがあるようです。

また、ペスト菌は天然痘の菌と同じようにあまり遺伝子の変異を起こさない性質のものですから、感染してペスト菌に対する免疫が体内にできているひとがまた感染する可能性はそれほどないと考えられます。このことも、ペストが姿を消した大きな原因の一つでしょう。

近年、ペストが一部の地域で流行することが時々ありますが、テトラサイクリン系の抗生物質やサルファ剤が有効ですから早期に治療すればそれほど心配する必要はありません。しかし、すぐにペストと診断してもらえるかは医者の腕しだいともいえますから、油断は禁物です。

また、物騒な話ですがテロの道具としてもペスト菌が使われる可能性があるといわれておりますし、ペストが流行した地域から輸入されたペットから感染することもありますから少し注意が必要ではないでしょうか。

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