前回、苦い味が胃腸によいという話をしましたが、身体によいことばかりなのかというと決してそういうわけではありません。

例えば、センブリという名前の薬草があります。なぜ、センブリという名前がついたのかと言いますと、千回煎じてもまだ苦いという比喩からです。この薬草は、苦味健胃剤として、食欲不振や胃のもたれ、消化不良などの胃酸分泌が低下した場合の症状によく用いられます。

しかし、発ガン性があるため、長期に渡っての連用はおすすめできません。センブリの発ガン性は、それ自体が非常に苦いことが原因とされています。苦味で胃壁が刺激されて胃酸が分泌される仕組みですが、あまりにセンブリの苦味が強いため、胃酸が出過ぎてしまい胃潰瘍の状態になってそれがガン化するのではないか、というふうに考えられています。

※センブリに含まれるアマロスエリンという成分は、自然界に存在する物質の中でもっとも苦みの強いものの一つです。

少し余談になりますが、以前は市販されている“毛生え薬”の多くに、センブリのアルコール抽出エキスが主要成分として配合されていました。どうして、健胃薬として用いられるセンブリが、毛生え薬の成分として使われたのかといいますと、その苦味で頭皮を刺激して血行をよくするためです。

しかし、それはいわゆる表向きの話であって、「雑草がほとんど育たない不毛の地でもセンブリはよく生育するというので、興味半分で加えてみたら意外と効果があった」というのがどうも真相のようです。

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◆城戸宏美◆ プロフィール
元福井大学医学部付属病院看護師・登録販売者
(福井県立大学・武生高校卒)

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◆ この東洋医学のコラムは、虎ノ門漢方堂の薬剤師 城戸克治が、直木賞作家 邱永漢さんの依頼を受け、ほぼ日刊イトイ新聞の分家サイト「ハイハイQさん」に約3年間に渡り連載した医師/薬剤師向けの「中医学事始め」を一般の方向けにわかりやすく解説したものです。

※この記事の著者、城戸克治のプロフィールはこちら