サリドマイドは、日本のほかヨーロッパなどでも被害児を出しましたが、驚くべきことにアメリカではほとんど犠牲者を出しませんでした。
何故なら、FDA(米食品医薬品局)薬剤評価センターの審査官F.C.ケルシー女史が、サリドマイドの毒性のデータの不備に早くから疑問を抱き継続審査を行なっていたためです。
彼女が資料の不備を指摘し医薬品として承認しなかったことに対して、ケネディー大統領から特別金賞が贈られたのは有名な話で、FDA(米食品医薬品局)が今なお世界中から多くの信頼を得ている所以でもあります。
世界中で多くの犠牲者を出してしまったサリドマイドですが、FDAは1998年、「ハンセン病」に伴う炎症の治療薬として医薬品の認可を再び与えました。以前から、サリドマイドがハンセン病の炎症の激痛に非常に有効であることはよく知られており、闇で高値で取引されているという現実がありました。そのため、FDAもサリドマイドを野放しの状態に放置しておくわけにもゆかず、再承認に踏み切らざるを得なかったのでしょう。
ただし、使用にあたっては極めて厳しい制限が設けられており、指定された医師以外の使用は許されませんし、催奇形の副作用を防止する意味で女性患者だけでなく男性にも避妊を義務づけるという二重のチェックも行なわれております。
しかし、サリドマイドは敢えてこうした使い方をすることで、ハンセン病の炎症の激痛に苦しむ患者さんたちにとって、「薬としての役目」を再び果たすことが出来るようになったのです。
このように、薬物の有効性と安全性を天秤にかけ、副作用の発現にも最大限の注意を払い、患者さんがリスクを承知した上で必要ならば使用するという判断の仕方は、患者さんの立場においても十分に納得が行くやり方だと私は思います。
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◆城戸宏美◆ プロフィール
元福井大学医学部付属病院看護師・登録販売者
(福井県立大学・武生高校卒)
◆虎ノ門漢方堂◆
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◆ この東洋医学のコラムは、虎ノ門漢方堂の薬剤師 城戸克治が、直木賞作家 邱永漢さんの依頼を受け、ほぼ日刊イトイ新聞の分家サイト「ハイハイQさん」に約3年間に渡り連載した医師/薬剤師向けの「中医学事始め」を一般の方向けにわかりやすく解説したものです。
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