第106回 「幼い少女の祈り」

土の中の放線菌から「ストレプトマイシン」を発見した細菌学者のワックスマン博士が、ノーベル賞の受賞のためスウェーデンの首都ストックホルムを訪れたとき、彼は、可燐なオランダセキチクという花を五輪、胸に抱いた幼い少女の訪問を受けました。

幼い少女がその五輪の花を博士に差し出すと、それを眺めていた機械工場で働く若い父親はこんなことを言ったそうです。「この花の一輪は、それぞれが私の娘の一年ずつの命を意味しているのです。娘は五年前、脳膜炎の診断を受けました。ところが、娘は死ぬ直前に、博士が発見されたストレプトマイシンを投与したおかげで生き延びることができたのです」

ノーベル賞を受賞した後の記者会見でも、「私には、スウェーデン皇帝グスタフアドルフ殿下から授かったノーベル賞より、五輪のオランダセキチクのほうがより大きい名誉でした。私を生かすために十字架によって血を流されたキリストに、私はどんなに感謝していることでしょうか」と博士が語ったという逸話が残されています。

また、ストレプトマイシンの特許使用による収益は、博士の母校であるラトガーズ大学に全額寄付され医学の研究に大いに役立てられたということです。私は、ストレプトマイシンの名を目にするたび、またワックスマン博士のお名前を耳にするたびに、いつもこれらの話を思い出し博士の遺徳をひとり静かに偲ぶのです。

1952年、ストレプトマイシンの発見により、ワックスマン博士はノーベル医学・生理学賞を受賞しました。ストレプトマイシンは、それまで不治の病とされていた肺炎や結核などに卓効を示し、今も、世界中で人々の生命を救うために使われています。

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